富野道
   
インタビュー構成:氷川竜介 収録日2002.1.31
──∀は2本日替わりのサイマル・ロードショーという上映形式が珍しいですよね。
富野 僕はそんなに上等な人間でも天才でもないので、今度の映画でひとつだけ申し訳ないと思うのは、この程度の話でも4時間半の時間を必要としたことです。『地獄の黙示録(特別完全版)』よりも短くしたかったんですが、1時間もオーバーしてるので、その部分が本当に悔しいです。けれど、ひとつ冷静にわかってほしいことがあります。2時間10分ぐらいの映画を2本同時に公開したのは、世界でもこれが初めてではないかと思うんです。仕事の量としても半端ではありませんでしたが、これをアニメだからできたとか、ガンダムだからできたというほど簡単なものには思わないでください。昨年、『ユリイカ』という7時間の映画があったそうですけどね。

──それはどういう点に関してでしょうか。
富野 アニメーションも映画です。その映画の中でもかなり上等な映画の仕事をやり遂げたということです。菅野よう子さんの音楽にしても、ジャパニメーションといわれる映画音楽とも、ようやく違った色がつき始めていると思います。音楽の方が映像よりももっとワールドワイドになり得る手段ですから、そういったタレントが出てくるというのは非常に良いことだと思います。

 音楽の菅野よう子さんも雑誌の記事で∀ガンダムを通じて「映画の仕事」ということにプライドをきちんと持てたことを表明されています。世界に通じるタレントがこうおっしゃるのですから、僕の仕事ということではなく、スタッフ全員も映画の仕事をきちんとやったということに対して、本当に自信を持っていただきたいんです。

──物語をまとめたというよりは「映画」にしたというところに意味があるわけですね。
富野 アニメも「ただ動けばいいだろう」というものとは違ってきていると思います。今回の∀の映画化を通じて、ディズニーと宮崎アニメだけではないということを世界中の方に知っていただきたいと思います。

──実際、公式Webでも外国からBBSに英語の書き込みがあったりしますから、興味はあるのではないでしょうか。
富野 好きな人は熱意があるから、インターネットを通じて好きなところにたどりつくのは当たり前のことでしょう? もっと広くワールドワイドに通じるものとして認知されたいと思っているのです。

 欧米の作品では、まだまだ「アニメだからこんなものだろう」というものが見えてくることがあって、大人が見て耐えられるかどうかという以前に、子どもが見ても引っかかるようなところを残しているようで、とても残念に思います。新しい媒体に対して嫌悪感を抱きがちなヨーロッパ人がアニメーションに対して、「道具として使っていますよ」と極めて醒めた感覚を持っていることもよく知っています。

 ですが、もう少し見下さずに「映画としてのアニメーション」の可能性に気づいてほしいと思うのです。正攻法的にとらえても、アニメーションは映画として面白く使える表現手段ではないか、ということをもう少しわかっていただきたいです。そういう時代だと思います。

──当たり前のようですが、忘れられがちなことかもしれませんね。
富野 いま、日本のアニメも映画も、育成機関と呼ばれるものがビジネスを中心にして狭い視野しか持っておらず、本当の意味でのワールドワイドの視野を持っているとは思えないので、あえてここでこういう話もさせていただきます。「たかがアニメでそんなことまで考えなければいけないんですか」と驚かれる方がいたとしたら、映画は小説以上にワールドワイドに広がっていく仕事ですから、そこまで考えていただかなくては困るんです。

 まず世界を視野に入れた映画として考えた上で、そこに自分の好きなものを入れていくという順番で考えていただきたいのです。映画は、ただ作者のフラストレーションを吐き出して解消するだけのものであってはいけないと思います。もっと映画的なもので、映像的なるものを基本においた物語の作り方があるのではないかと思います。パブリックに開かれて、ワールドワイドに対して見てもらうという発想なり姿勢を確立して、作り手を育てていかなければならないと思います。

──今回の∀の映画にも、その願いがこもっているわけですか。
富野 もちろんです。この2本の『∀ガンダム』という映画を出発点に考えていただきたいし、考えるための材料をいくつも封じ込めたつもりです。今回、2本同時公開で行われた映画のイベントは、ガンダム20周年記念のときよりも、ずっと意味があると思っていますし、実際にスタッフやキャストの間にも熱いものがあります。ですから、単にビジネスの話だけですますようなことはせずに、内容の部分に心をこめたつもりです。このようにして2本の映画をつくったことの意味性を、きちんととらえていってほしいと思います。

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このコラムは劇場版∀ガンダムwebに掲載されたものです。


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