富野道
インタビュー構成:氷川竜介 収録日2002.1.31
──監督のお話には、いろいろと考えさせられるところが多いですね。
富野 観客のみなさんの側でも、どうしてこういった映画が出来上がったんだろうと、疑問に思われるのではないでしょうか。そのヒントになるようなことは、ここで半分以上はお話ししたつもりなので、あとの半分は皆さんが実際に劇場でご覧になって考えていただきたいと思います。

 もちろん考えることが面倒臭い人は、ただご覧になるだけで結構です。映画の基本は見ることですから、考える必要もなく楽しんでいただくだけで良いです。そうはいっても、この2本の『∀』では、お楽しみと考えることの両面を支えるだけのものが手に入れられたという自負がありますので、楽しんでいただいた上で「こんなにいろんなものが突っ込んである映画なんだな」と思われたら、ご自分で考えて、考えることも楽しんでいただきたいのです。

──楽しみということであれば、監督ご自身も、本当に嬉しそうなご様子ですね。
富野 僕個人の話をすれば、ようやくこれで還暦のお祝いをやっていいのかなと思います(笑)。だって去年まではそんな風には思えなかったんです(編注:2001年11月富野監督は60歳を迎えた)。そういうことで言えば、これでようやく大学の映画学科レベルの卒業証書を手に入れることができたという風にも感じています。アニメとして以前に、映像をつくっていく仕事が、改めて本当に好きになりました。だからもう少し……あと2、3本の映画を作ってみたいなと思うようになりました。

──改めてお聞きしたいのですが、つくり終わったとき、これだけせいせいしたと感じられたのは、本当に久しぶりのことでは……。
富野 (ささやくように)……初めて……(一同爆笑)

──80年代の作品だと、後半の監督インタビューでは、必ず意気込みがトーンダウンしていましたよね。
富野 だから、卒業証書というのもレトリックではないんです。これが自己陶酔みたいに聞こえたら困るのですが、それでもいいと思っている部分もあります。ようやく映像に対するスキルを手に入れたのかもしれないのだから、むしろ責任を感じます。きちっとしていながら、もう少しわかりやすい作品を作ってみせたい、そういう義務があるのではないかと思い始めています。

 今までは、自分にこういうキャリアがあるのだから、何か作らせてくれたっていいじゃないか……そんな風に考えていました。ですが、この映像的なスキルは、思っていたよりよりもかなり面倒で複雑だということもわかってきたんです。

──それは今度の富野監督の著書「映像の原則」(キネマ旬報社)にも書かれていますね。
キネ旬ムック「映像の原則」
キネマ旬報社から発売中
http://www.kinejun.com/
富野由悠季著/A5判/本体1,905円+税

富野 そうです。今回の映画化と本を書く作業を通じて、映像をつくるということは、思った以上にいろんなものが複合しているということが改めてわかってきました。だから、もう少し作品、実作という形でつくっていかないと映像的なスキルを収めた意味がない……そう思い始めたんです。

 次に作るべき作品も、それだけ映画に耐えうるボリュームが欲しいのです。ですが、今回の『∀ガンダム』の結果をふまえた上で、数年後に発表してしかるべき作品の形は、いったいどういうものであれば良いかが、いま本当にわからなくなってきていて、ちょっと困っています。しかし、この「困ったこと」は物をつくっていく上では苦労をして乗り越えなければならない当前のことだとも思っています。悔しいけれども、年齢の問題が抜きさしならないということもわかってきたから、それを乗り越えていく作業は、個人的にはつらいところもありますが……。

 映画というものは活動大写真が出発点ですから、ハリウッド映画のようなはしゃいだ映画があっても良いんです。ですが、その一方で映像で物語る作品というものは、決してそれだけではないだろうとも思っています。今回の2本の『∀ガンダム』を映画にする作業を通じていろんなことがわかった上で、あと2〜3本、警戒感をもって映画を作ってみせたい。そういう高いレベルを、自分で自分に要求するようになりましたね。これはもう、自分で作品としてつくってみて提示するしかありません。

──それだけ目標の高い映画をつくるために必要なことは何でしょうか。
富野 そういう映画を目指すとなったら、きちんと作る……それに尽きます。それを自意識を持ってやり遂げた映画監督は、それほど多くはないと思います。だから、過酷だなあといま思っているところです(笑)。

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このコラムは劇場版∀ガンダムwebに掲載されたものです。


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