インタビュー構成:氷川竜介 収録日2002.1.31 |
──『地獄の黙示録(特別完全版)』の例は、映画は編集次第で「化ける」ということを意味しているのでしょうか。 |
富野 そうですね、まさに化けます。それくらい映像媒体をまとめる仕事は面白いんです。映画では舞台に比べてリバイバルということが難しくて、1本きりで競いあう作品がないために、評論を間違うことが多いと思っています。舞台では、誰々の演出、この配役ということが普通に存在して、このときのは面白かったが、あのときのはひどかったという比較ができます。ですから、映画でも1度やった良いコンセプトをよりよく再演することは、あって良いと思いますし、書き直すとののしられるだけというのは、少しおかしいと思います。
映画にも確かにリメイクものがありますが、ほとんどがオリジナルに勝つことができません。大きな原因は、映画のスタッフが再演に慣れていないということでしょう。オリジナルでは当事者たちがどうつくっていくか先が見えていなくて、緊張したり悩んだりする部分が作品を包み、予定調和を見せなくしていたことが良い方に作用しているのです。ところが再演ものには、オリジナルを予定調和とすることで、そこへ向かう打算が見えてしまい、緊張感が少なくなって失敗するのだと思いますが、他にも再演するというセンスのない映画人の問題もあります。
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──確かにそういうリメイク作品は多いように思えますね。 |
富野 ここで演劇と映画に大きな違いがひとつあります。舞台は絶えず生ものであるということです。ものをつくる上では、最終的に予定調和が見えない緊張感が重要ですから。今のアニメ制作でも、全部デスクプランでできると思い過ぎている部分があって、全部が予定調和に落ちていく……そういう作り方をしているがゆえに、作品を狭くしているケースが、非常に多い気がしています。映像を扱う上では予定調和があってはならない、しかしその中で何とか完成作品に持ち込んでいくという、せめぎ合いの中でつくるものだと判るスタッフを育て、増やしていかなければならないと思います。
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──そういう危機感をお持ちだということですね。 |
富野 特にアニメの場合は全部机上で作業しますから、設計図どおり予定調和に持っていけば作品ができると思っているスタッフが、この10年ぐらい増えた気がします。今回、『∀ガンダム』でテレビの再演という機会をいただいて、まとめる作業を通じることによって、現実の問題についての確信が得られました。
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──確かにこの10年ぐらい、アニメづくりに「方程式」という言葉もよく聞くので、気にはしています。 |
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富野 最近、ある雑誌の編集者の方がおっしゃった言葉が非常に印象に残りました。その方は、映画版の『∀ガンダム』を通して観て納得した上で、テレビ版もご覧になって、「やっぱりそうだったのか」と確認できることが数多くあったそうです。つまり、セリフの一言を映画として受け渡しするために、テレビのこの話とこの話とが結びついている、そういう納得がものすごくあったそうです。これも予定調和にはなっていないということの現れなんです。面白かったことにはきっと何かがあるという疑問を抱きつつ、バックグラウンドがたくさんあることに気づいて、ますます好きになってくれた方がいたことは、本当に嬉しいことでした。作品というものは、本来そういうものだと思います。だから、全部自分の思ったとおりに作れると思うと予定調和に落ちるしかない……そう気をつけることがもっとも重要なことです。映像媒体というのは、予定調和を超越したものができる希有な媒体だと思います。それが一番の面白さであり勘所なので、そこを目指した作品づくりをみんなで実行して欲しいと思いますね。
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──映画学校の卒業証書を手にした上で、富野監督がつくりたい映画は、どんなジャンルのものになるのでしょうか。 |
富野 もちろん、従来的に言われる「文芸作品」はつくりたくはありません。エンターテインメントを目指したいですし、ロボットもののジャンルになるとは思いますが、せめて『2001年宇宙の旅』は越えてみたいものです。目標が高いので、難しいでしょうが(笑)。
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このコラムは劇場版∀ガンダムwebに掲載されたものです。 |